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「肌触りが悪いリアリティ」 映画 ハッピーアワー 感想

昨年から公開は始まっていたようですが、先日こんなイベントで、噂の「ハッピーアワー」を観る機会をゲットしたので、感想を簡単にまとめておこうかと思います。

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一言感想

「どこがハッピーアワーだよ!」と暴れたくなるような、すごい映画でした。自分がなんとなく見ないようにしたり、見ても視点を合わせないようにしていた肌触りが悪いリアリティを、映画が容赦なく観せてくるので、すごく大変です。5時間強の上映時間はお尻に辛いですが、とにかくオススメです!

じゃあ、この肌触りが悪いリアリティとは何か?という事を、大きく3つの項目に分けて記録しておこうと思います。

見たことのない「大人のキャラクターのリアリティ」

公式ページの方にも記載されていますが、ハッピーアワーに出ている人のほとんどは演技経験のない方たち。「なのに」なのか「だから」なのか、この映画が提示してくるゴロッとしたキャラクターのリアリティには驚かされました。いわゆる「すごく上手な女優/俳優の演技」ではないんだけど…例えて言うなら「自然体そのままで映画にばっちりハマっちゃった子役」みたいな感じが近いのかもしれません。

www.youtube.com 最近だとROOMとか、子役の男の子の実在感が凄すぎて「演技って何?」って思いました。

そういうハマり方って子役だと「可愛い!すごい!」と感じて、すごく微笑ましいんだけど、大人だと…なんだろう正直怖かったです。 つっかえる言葉、泳ぐ目、髪の毛がボサってしてる感じ、若干の肌荒れ、あとすっぴんとか、すっぴんとか! 多分、実世界ではたくさん見てるんだけど、スクリーンを通してはあまり見たことのないリアリティがいっぱいだったので、とにかく怖かったです(褒め言葉)

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逆に、「私たちの目は、実世界の物事は上手いことフィルタリングしてる」とも言えるかもしれません。初めてメガネをかけてて鏡で自分の顔を観た時「うわ!リアル!」って思ったことを思い出しました。

ライド感の高い「長いシーン」

ハッピーアワーには「印象的な長いシーン」が沢山出てきました。ワークショップとか、打ち上げとか、朗読会後のトークイベントとか。個人的に一番ぐっと来たのは「微妙なワークショップをほぼ全部観させられる」あのシーン。リアリティというか、ライド感が半端なかったです。丁寧に「ワークショップあるある」が描かれて、かつ長い。しかも内容が絶妙に信用できないので、不思議な緊張感が持続する…自分があのワークショップを受けてないのが不思議なくらいでした。

そのほかも、「この摩擦係数が高いリアリティから開放してくれ!」と逃げたしたくなるような、良いシーンばかりでした。怖かったです(褒め言葉)

f:id:t0rakeina:20140724223206j:plain 地獄打ち上げシーン

「完全な悪者はいない」という嫌さ

ハッピーアワーを観ていて、改めて「実世界に完全な悪役はいない」という事を実感しました。(文字にすると実に陳腐なのですが…)

対象が「良いやつ」なのか、「悪いやつ」なのかを決定するのは客観的な目線で、その目線が「対象の全て」を捉えられるわけではない。そうすると、その時々の切り取り方によって「悪い/良い」というジャッジがなされる…これってまんま物語構造なんだなあ、と思いました。誰かの恣意的な目線で切り取られ、その時の「乗り越えるべき壁」や「倒すべき敵」(悪者)が設定され、それらを乗り越えたり、倒したりすることで、カタルシスと物語的なオチを付けてる。

でもハッピーアワーでは、登場人物の色々な面を、意図的に、可能な限りたくさん見せるようにしたのかな?と思いました。かなり精神的にキちゃってるキャラクターにも共感できる瞬間があったり、「最低!」と思うようなキャラクターにも突然同情出来てしまったり、逆に、最初は感情移入していたキャラクターの行動原理がまったく理解できなくなったり…。やっぱり「この人は感情移入できる!」「こいつが悪者だ!」ってはっきりわかると、摩擦係数が低いと思うんですよ。でもこの映画は、そいういうところが全然スベスベじゃない。この映画が、観ていて何故か冷静でいられない、客観視できないのは、そういうことが原因だと思いました。当事者でい続けなきゃいけないように出来ている、大変疲れる映画だったと思います(褒め言葉)

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「リアリティの追求」というアプローチの多様性みたいなものを再認識できる、強烈な映画でした。5時間強の上映時間はすごく長いけど、全然退屈しない、そしてキッチリ疲れる、豊かな時間だったなぁ。