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DIYでコンプレックス克服! ~写真と自分のコンディション+逆向きアプローチ~

前回まで

写真写りが悪いことがコンプレックスな私は、それを解消するツールを作っては投げ出し、作っては投げ出し…を繰り返して早二年。思わしい成果が得られず、前回の記事では原点に立ち返り「なんで自分はそんなに写真写りが悪いのか」ということを、写真家である父との被写体役だった自分との関係性から紐解き、「写真を撮られること自体がプチトラウマ。とはいえ写真自体が嫌いではない(むしろ好き)なので、写真と仲良くなりたい」と結論づけ、「『写真と仲良くなる』を目標に、インタラクションを通じて何か策をこうじたい」とふんわり締めくくりました。
t0rakeina.hatenablog.com

今回は、とりあえず自分が写真に関わっている時に「どんな状態なのか」を確認することにしました。すぐに試せそうなところで、「自撮りを撮っている時の心拍」を計測して、どのくらい緊張しているのか(ナーバスになっているのか)を調べてみます。

実験の流れ

実験に使ったのは以下の道具です。

心拍(パルス)センサー

www.switch-science.com
今回は耳に取り付けて使用します

Arduino

www.arduino.cc

Openframeworks (Mac)

openframeworks.cc github.com 今回はこちらのAddonを使用させて頂き、カメラとしてMacの内蔵カメラを使用しました。  

実験の様子

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孤独な実験なので、実験の様子を撮影してくれる人もいないので図解してみます。1人で休日に(しかもわざわざ海外で)一体何をやっているんだ感が過去最高に高い…

Macの内蔵カメラを使用した自撮りを、以下の3つの撮影方法に分けてみました。

Macの画面を見ながら撮影

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写りを常に確認しながら撮影する、いわゆる普通の自撮りです。

Macを見ないようにしながら撮影

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明後日の方向を見ながら撮影。写りは一切確認できません。

この2つの撮影方法で「笑顔を作る」「表情を特に意識しない」の2種類、計2 × 2 = 4パターンの写真を、各パターン3回づつ撮影し、3回分のBPM(心拍)の平均値を出してみました。 加えて、比較対象として「特に何もしていない状態の心拍」も3回計測し、その平均値も算出しました。

予想

なんとなく体感的に、「笑顔を作る」状態の方が、「表情を見せ特に意識しない」状態よりも緊張する気がします。また、カメラを完全に見ていない方が多少気楽…か?

結果

結果は、こんな感じになりました。

撮影方法 心拍数BPM
何もしていない時 70
画面を見ながら撮影 × 表情自由 73
画面を見ながら撮影 × 笑顔 76
Macを見ないように撮影 × 表情自由 73
Macを見ないように撮影 × 笑顔 81

もっと回数を撮影すれば数値の制度が出そうな気がしますが、この結果からも、 「笑顔を作っている時の方が緊張している」「視界に自分の姿が入っている時の方が緊張していない」とは言えるのではないかと思います。

考察

緊張のファクター

笑顔が緊張のファクターというのは予想通りでしたが、視界の中心に自分が写っている = 超普通の自撮り状態の方が、その他の撮影方法の時より緊張していないというのはちょっと意外でした。過去の記事で「人に撮られるよりは自撮りの方が写真写りが若干マシ」とは書いていたものの、それはあくまで「写り方を直前まで確認できる」からであって、自意識おばけの私的には、自分以外の人がシャッターを切る方が諦めがつくというか、「もーどうでもいいわい!」とやけくそになれる分気楽だと思っていたのですが、どうやらそうでも無いご様子です。この結果を見た私は、少し前に誰かから聞いた「行為の『主体』について」の話を思い出しました。

一人の身体に2つの役割

「例えば、自分の右手と自分の左膝が触れ合っている時、『右手が左膝に触っている』と感じるが、『左膝が右手に触っている』とは感じづらい。自分自身に触れるという1人の人間の中で完結している行為であっても、行為をする側(主体)とされる側が存在する」という話です。
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なんらかの文献がリファレンスになっていたと思うのですが発見できず…(もしご存知の方がいたらご一報願います…!) 「自撮りも、自分自身に触る時と同じように、行為をする側である撮影者と、行為を受ける側である被写体との2つの立場が同時に1人の人の中に存在する行為だな。もしかして私は、意識の『被写体側の割合』が高まると緊張するのではないか?」と思い至ったのです。

意識の撮影者割合と被写体割合

例えば画面を見ながら撮影 × 表情自由 などの画面を見ている状態は、「写り方を常に目で見て確認しながら撮影できる」状態です。私は「この状態のほうが自意識が暴走してしんどそう…」と思いましたが、意識の撮影者割合が高い状態とも言えるでしょう。 f:id:t0rakeina:20170723181144p:plain:w600
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同じ撮影方法でも、画面を見ながら撮影 × 笑顔の時のように笑顔を作ると緊張度が上がるのは、「作った笑顔をキープするためには、顔を緊張させ続けなければいけない」→ 「写り方を確認する撮影者としての行為よりも、顔を緊張させ続ける被写体側の行為の方がパワーを使う」→「意識の被写体割合が高まる」という感じな気がします。 笑顔以外にも、特殊なポーズをとる、通常ありえないほど人に接近する、なども緊張し続けなければいけないので、より割合を上げそうです。
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興味深いのは、

撮影方法 心拍数BPM
Macを見ないように撮影 × 表情自由 73
Macを見ないように撮影 × 笑顔 81

の2つの数値の差です。
完全に画面の見ないで撮影となると、投げやりにならざるを終えません。撮影者としての意識も、被写体としての意識も無い状態なのでしょう。しかし笑顔を作ろうとすると、純粋に被写体としての意識だけが立ち上がったのか、実験した中で最も高い数値が出ています。
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自撮りにおいて目(視覚)は撮影者、そのほかの感覚は被写体としての意識とコネクトしており、どの感覚が意識の中で優位に立つかが、2つの立場の割合に影響を及ぼしていると言えるのかもしれません。

もし私がなるべく緊張せずに自撮りを撮ろうと思ったら、
緊張をキープしなければならないような負荷を自分自身にかけない
撮影者であることを意識する(ないし意識だけでも撮影者の視点に立つ)
この2つのことに注意を払うことで、写真自体の出来はともかく、楽しく自撮りしたり、写真に写ったりできるのかもしれません。 笑顔以外の表情で写真に臨むのが一番の近道のような気がしますが、それはそれで別のスキルが問われているような気がする…(写真のスキル、顔面のオシャレさなど) また映る写真によってTPOも存在するので(晴れの日の集合写真など)、万能な策ではなさそうです…

逆向きアプローチ

この実験のためのコードを書いているうちに、副産物的なプログラムが出来ました。 心拍の波形を描画する部分をちょっと変更して、写真にかけるエフェクトとして「撮影者がどのくらい緊張度していたか」を示せるように試みて見ました。 心拍数が上昇し、緊張度すればするほど面白い写真になるようになれば、自分自身の価値観が変わらないかな、という逆向きからのアプローチです。
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今のところは「面白くなる」というより「よりプライバシーが守られる」という感じですが…

試しに、普通の写真を外で撮る時の心拍も測ってみました。 あまりにも怪しい出で立ちですが、Goproを持っている人や、Googleのカメラの人などがそこら中にいる界隈なので許されるでしょう(多分)。
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f:id:t0rakeina:20170723175105p:plain:w600 まだエフェクトの種類や、センサーの値が不安定な部分もありますが、精度を高めていくと、写真というメディアアーカイブに「撮影者の撮影時のコンディション」というレイヤーを1つ足すことが出来るようになるかもしれません。正攻法とは違う感じがしますが、少し写真と仲良くなれたような気がします。