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最強に優しい"リベラル"な映画『マッドマックス/怒りのデス・ロード』感想

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イモーーーーーターーーーン!!!!!! V8!V8!V8!V8!V8!

6月20日から劇場公開がスタートしたマッドマックス/怒りのデス・ロード』が、予想通りすんごい面白かった & 全然予想していないストーリーでびっくりしたので、まとめたい思います!
大丈夫だと思うけど、多少ネタバレ注意です! というか、まだ観てないかたは、とりあえず観たら良いと思います!
what a lovely day!!!(銀スプレーをプシューーーー!!!)

一言感想

身を任せれば全自動で地獄の荒野に連れて行ってくれる、超暴力的旅行型アクション映画。
そして、驚くほどリベラルな、2010年代最強の優しい映画なのかも…?
男女問わず、勇気を出したい人みんなにオススメです!!!

マッドマックス ≒ アナ雪??

予告のカッコよさと、ありえない程の下馬評の高さに、公開前から期待値上がりまくりだった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。とはいえ、前作の記憶はマッドマックス2多分WOWOWで観たな…小学生だったよな?…なんかマスクの人が怖かったような…」と非常に曖昧だし、あまりに上がってしまった期待値に「これはがっかりするパターンも覚悟しておかなければ…」と思いながら映画館に向かいました。

観た直後の自分を振り返ると、

という感じで、さっぱり頭が回っていないのが分かります。

「もう観たんだ〜!面白かった?」と周りの人に聞かれても「多分超面白かった…」と煮え切らない感想しか出てきませんでした。なぜなら「ストーリーらしいストーリーが無かったのに、なんであんなに感動したのか、自分でも理由がわからない」から。

確かに改造車同士がぶつかりあい景気良く爆散していく様は、観ていて最高に気持ちいいし、CGを極力廃したとは思えないヤバいアクションシーンは、全自動でテンションが上がるし、出てくるガジェットもキャラクターもワクワクさせれられるものばっかりでした。

f:id:t0rakeina:20150701002143j:plain 特に好きなのが、この後ろの、通称シルク・ド・ソレイユ。もう面白すぎるし、怖すぎるし最高。

こういったフェティッシュな部分が最高に楽しい、というのはすぐに説明がつくのですが、「なんかそれだけじゃあんなに感動しない気がするんだよな〜」と悶々としていました。

そして時間が経つに連れて、あることに気づきます。

あれ?もしかしてあの感動って、アナ雪を初めて観た時に近い…?

「いくらディズニーが好きだからって、なんでもかんでもディズニーの話に持ってくなよ!」と思われる方もいるかもしれませんが、考えれば考える程、類似点が見つかったのです。

ミュージカル映画としてのマッドマックス

比較的よく見られるアクション映画の残念なところとして、「激しいアクション(戦闘やカーチェイス)がはじまると、ストーリーの進行が止まる(遅くなる)」という点があげられるかと思います。
しかし、「全編がトレーラーなのかよ!」と思うテンポで話が進行するマッドマックスでは、息つく暇なく続くアクションシーンのなかに、「キャラクターのバックストーリー」「今何を考えて動いているか」「人間関係がどう変化したか」などの様々な情報がぶっこまれていていました。

わかりやすいポイントで言えば、ウォーボーイズの最初の戦闘シークエンス(VSヤマアラシ(?)戦)では、「ウォーボーイズの価値観・生死感」がパパっと理解できるようになっていたり

f:id:t0rakeina:20141211164208j:plain このシーン直後の「よく死んだ!」という「前後関係がわからなければ意味不明であろうセリフ」もスッと頭に入ります。

フュリオサとマックスのアクションシーンでは、「この段階で、どの程度お互いがお互いのことを信頼しているか」がセリフ抜きで分かるようになっています。 (銃を受け渡す仕草など、細やかなポイントから関係性が伺えます)

この「アクションによるストーリーテリング」がすごく良くて、「言葉にすると陳腐化しちゃいそうなベタな感情」から「言葉にするのが難しそうな繊細な感情の機微」までを、実に映画的(映像的)に、観ている我々の頭のなかに(半ば強制的に)投げ込んできます。故に、「あれ、なんで私こんなに感動してるんだろう…」と、こっちが気がつく前に泣かされてしまうわけです。

このアクションの映画内での機能が、ミュージカル映画におけるミュージカルシーンの機能とかなり近いように感じました。

アナ雪が最高のミュージカル映画だ、という話は下記の記事にまとめています。

t0rakeina.hatenablog.com

「セリフでは説明できない複雑な(グレーな)心情をきっちり歌い上げた」アナ雪の曲、特にlet it goはエルサの「自由を喜びながら、ヴィラン化してしまいそうな絶望も顔を覗かせる」という相反する感情を見事に伝えてくるのです。

セリフやモノローグではなく、それぞれの映画の大切な要素(アクションシーン、ミュージカルシーン)でキャラクターの感情を伝える、普通のことといえば普通のことなのかもしれませんが、どちらも強烈な印象を与えてくれました。

加えてマッドマックスでは、全編通して音楽がかなり意識的に使われています。

f:id:t0rakeina:20150701003135j:plain みんなだいすきドゥーフワゴン!戦意高揚音楽のためにガソリン使いすぎだろ!!!でも面白いので良し!!!

ドゥーフワゴンなどの目に見えるの音楽的要素もさることながら、シーンによってはがっつりクラシック曲を使ったり、なにしろ終始エンジン音をかっこ良く響かせてるなど、耳にも(嬉しい方向で)暴力的な映画になっています。

音楽に合わせた俳優たちのグッと来る動き( = アクションシーン) これはもう、ミュージカル映画と言っても過言じゃないのでは?と私は思います。

②女性が女性を救助するストーリー

アナ雪は、アナがエルサを(エルサがアナを)助けようとする、「女性が女性を助ける」お話でした。そしてこのストーリーが、それまでのディズニープリンセスストーリーとは違う、新しい価値観を提示する「現代的なお話」として、たくさんの人から評価されました。

今回のマッドマックスも、ざっくり言えば「女性が女性を助ける」お話です。主人公はマックスですが、彼はあくまで「女戦士(大隊長)フュリオサがワイブス(子産み女達)の亡命(?)を手助けするのを、その場の成り行き上協力する」という、巻き込まれ型の主人公なのです。 タマフルでのジョージ・ミラー監督インタビューを聞いて猛烈に納得したのが、

マッドマックス/怒りのデス・ロード』で私は、映画全体を一つの長いチェイスとして描こうと思ったわけだが、主人公たちがなぜ戦っているかといえば、それは「人間らしくあること」のためだ。モノとか財宝のために戦っているわけではない。本作にも「財宝」は出てくるが、それは人ーー〈ワイヴズ〉だ。荒廃した地で、唯一健康な女たちだからね。その〈ワイヴズ〉の存在があるからこそ、女戦士が出てくる必然性が生じる。男であってはいけない。だって、「男が別の男から女を奪おうとする」というのでは話の意味が全然違ってしまうからだ。女戦士が、(隷属状態にある)女たちの逃亡を手助けし、マックスはそれに巻き込まれる。本作における〈フェミニズム〉はストーリー上の必然なのでであって、先に〈フェミニズム〉ありきで、そこに無理やりストーリーを付け加えて映画を作ったわけではない。〈フェミニズム〉はストーリーの構造から生まれてきたものなんだ。

という部分。

www.tbsradio.jp

確かに、「男性が女性を助ける」のと「女性が女性を助ける」のでは、まったくもって話が変わってきます。
だからこそ、ストーリー上必然的に、映画前半のマックスは「自分も助かるためにフュリオサやワイブスに協力する」というスタンスを取り、「(自分が)女性達を助けてやろう」といういわゆるヒーロー的な意識はありません。そして映画後半、フュリオサやワイブスと信頼関係を気づいた後では「仲間だから協力する」というスタンスに変化します。あくまで性別や、それに付随する力の差などを見せつけたり、上から発言したりしない、フラットなキャラクターなのです。
加えて、マックスは映画の中で「様々な優しいケア」を行います。フュリオサの無茶な計画を止めるために説得したり、輸血で相手を癒やしたり。これらのケアは、これまで多くの映画で女性キャラクターがヒーローに対して行ってきたことに類似しています。どこまでもフラットなのです。

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「フュリオサと比べて、マックスが地味でいやだ!」という感想も散見されましたが、それはこの「新しいマックスのフラットさ(リベラルさ)」故だと思われます。もしかすると「マックスは絶対的なヒーローであるべき」というスタンスの旧作ファンの方にとっては、ちょっと物足りないのかもしれません。

f:id:t0rakeina:20150701003444j:plain f:id:t0rakeina:20150701003539j:plain そもそも、メル・ギブソントム・ハーディでは、俳優的にも印象がすごく違うしなぁ…

③わずかな持ち物を捨てて、前に進むべきか?否か?

アナ雪のエルサは、生まれつき「王女」という立場を持っており、この立場が、ある意味でエルサを生かし、またエルサを苦しめてもいました。 そしてエルサは、一旦はその女王という立場を捨てることで、自由を得ます。しかし、自由を得た代償として、女王という立場以外にも、家族であるアナや、故郷をである国を失いかけてしまうのです。

ワイブスはマッドマックスの世界において 美しい = 健康体 というものすごく価値のあるものを生まれつき持っています。

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故に、子産み女という立場に甘んじれば、砦に住む他の人達よりずっと贅沢な暮らしができるのです。 フュリオサにしても、「大隊長」という役職が与えられるので、あのまま砦で暮らせば程度の生活は約束されているのでしょう。しかしその立場に甘んじて良いのか? 私達は人間として尊厳を保てているのか?これが「私たちはモノではない(We Are Not Things)」というメッセージにつながり、同じく「輸血袋」と呼ばれて「完全なるモノ扱い」を受けていたマックスと意気投合できる理由にもつながります。

ポイントは「どちらも『全く何も持っていない人』ではない」ということだと思います。

例えば、「レ・ミゼラブルのファンティーヌ 」や「オリバー・ツイストのオリバー」のような、「どん底の持ち物0状態 = 失うものも何もない」というキャラクターは、マックスひとりだけです。

どちらの作品も、これが最も「見る人の共感を呼ぶポイント」だと、私は思っています。「得たいもののために、何かを捨てれるか?」 ということで苦悩するキャラクターの姿は、視聴者(少なからず映画を観る程度には生活に余裕がある人)にはリアリティを持って響くのではないでしょうか?

そして、困っているのは女性だけではない

ここまで「アナ雪とマッドマックスとの類似点」を上げてきましたが、ストーリーの必然として〈フェミニズム〉が描かれたマッドマックスでは、女性だけが思い悩むのではありません。ウォーボーイズ達もまた、さまざまなもののメタファーとして描かれています。私が 驚くほとリベラル と言っているのは特にこの部分なのです。
現代社会でも、女性に対する様々な局面での風当たりは(程度の差はあれど)強く、解決すべき問題もたくさんあります。しかし、それは女性だけではないはずです。

ウォーボーイズを奮い立たせるのは、イモータン・ジョーによるインチキ宗教への「信仰心」だけで、彼らはその価値観を軸に生き、そして死んでいきます。あの戦闘が日常であろう極限状態に加えて、短命な寿命の彼らは、「死ぬのが怖くない(ヴァルハラに行ける)」と思わなければ、死ぬことに価値を見出だせなければ、とても生きられないのでしょう。 (汚染された空気のせいで平均寿命は大体20~30歳程度だが、イモータン・ジョーはマスクで濾過した綺麗な空気を吸っているので長生きできている、という設定らしいです)

そんな中、ウォーボーイズの1人であるニュークスは不本意な形で「自分の外側の世界」に気づき、少しずつ新しい価値観を形成していきます。自分で判断し、守りたいものを守るという「主体的な行動」や、「逃げ切りたい(生き残りたい) 」という「生に執着した感情」は、彼がマックスやフュリオサ、ワイブス達と合流する以前には感じたことが無いものだったでしょう。それ故に戸惑ったり、悩んだりする様子が、ニコラス・ホルトの名演でガッツリ表現されています。(ニコラス・ホルトはこういう演技が本当に最高…!)
「外側の世界」に気づかなければ、ある意味「幸せな人生」を歩み、ある意味「幸せな死」を迎えられたかもしれません。でも、ニュークスの人生は、マックス達の出会ったことで豊かになったように見えるし、何しろ目が変化するんですよね。うつろな目から、確信がにじみ出てる目になってる。

こんな感じから f:id:t0rakeina:20150701004840j:plain

こんな感じへ f:id:t0rakeina:20150701004857p:plain

結構はっきり変化しているように思うのです…

性別に関係なく、何かぼんやりとした大きいものの為ではなく、自分の為に、そして本当に守りたいものために(何かを捨てる覚悟で)戦う勇気を問い、その勇気がほとばしってる様をダイナミックなアクションで描く、それが『マッドマックス/怒りのデス・ロード』の感動の秘密なのだと思います。

こんなことをのたまいましたが、決してバカ映画ではありません。
ただ情報量が多く、フェティッシュに楽しすぎるために、観た人が一時的にバカになるだけでした…!
そんなわけで、『マッドマックス/怒りのデス・ロード』、響く人と響かない人は結構割れるとは思いますが、本気でおすすめです!特に「アクション映画?あんまり興味ないな〜」と思ってる人とか!友達とみんなで観に行ったら楽しいと思います!
witness me!!!!!!!!!!!